私は最近、ある業者さんに自宅のシロアリ駆除をしてもらいました。駆除作業が終わった後、作業チームのチーフに次の質問をしました。
・二度とシロアリに襲われないための点検法はあるのでしょうか

チーフは「ありますよ」と断言してくれました。
重労働の後で申し訳なかったのですが、第一線で活躍しているシロアリハンターに直接話を聞ける機会はそうはないと思い、30分ばかり「セルフ点検法」を伝授してもらいました。

ここで紹介するシロアリ点検法は、チーフが教えてくれた方法をメーンにしていますが、私が独自に調べた手法も盛り込んでいます。
みなさんの重要財産である住宅を守るために活用していただければとても嬉しいです。

「シロアリ日記」のあらすじ
 私(サラリーマンA、38歳)は最近、神奈川県横浜市の「すこしいいめ」の住宅街に、築25年のリノベーション済みの一戸建て住宅を購入しました。妻と小学生の子供2人も気に入っていたのですが、1階の和室の床下にシロアリが巣くっていたのです。私のシロアリ駆除の体験から、失敗したことや良い業者と出会えた経緯などを紹介します。

シロアリは4要素で防ぐ

第一線の作業員さんやシロアリ専門家たちの話をまとめると、シロアリのセルフ点検には、次の4要素が欠かせないことが分かりました。

  • 心構え
  • 見逃さない
  • 家の異変
  • 具体的なチェック方法

この4つが合わさったとき、効果的なシロアリ点検ができるというわけです。
1つずつ詳しく見ていきましょう。

心構えが大切なわけ

シロアリ駆除業者のチーフは「多分、Aさん(私のこと)は、もうシロアリ被害に遭わないと思いますよ」と言ってくれました。
私のようにシロアリ駆除の予習をしっかり行ってから4社に見積もり依頼をするような用心深い人間は、一度セルフ点検法を覚えてしまえば、しっかり実行するからだそうです。

チーフはこう言いました。
「シロアリはごく一部の地域をのぞき日本国中に生息していますが、すべての家が攻撃されるわけではありません。そこはシロアリの気まぐれなので、運・不運があります。
でも、シロアリの侵入を許した家がすべて被害に遭うかというと、そうではないのです。シロアリにやられるのは、住人が用心深くない家なんですよね」

チーフいわく、シロアリのセルフ点検で最も大切なのは「絶対にシロアリを防ぐ」という心構えだそうです。

「新築は大丈夫」ではない

最も心構えができていない人は、新築住宅のオーナーです。新築で使われる木材には防蟻(ぼうぎ)処理がなされている、と考えている人は少なくないと思います。
防蟻処理とは、住宅建設に使う木材にシロアリを寄せつけない薬剤を塗りつける加工のことです。
ある工務店関係者の話によると、相場より安い価格で新築住宅を建てる建築会社の中には、防蟻処理をしていない木材を使うこともあるというのです。
「新築はシロアリに食われない」神話は捨てましょう。そして新築住宅のオーナーも、シロアリのセルフ点検を実施しましょう。

心構えとは「お金をかける覚悟」ではないでしょうか

シロアリ駆除は、業者に頼むにしても、自分で薬剤をまくにしてもお金がかかります。シロアリの予防の心構えを持つとは、具体的には「多少お金がかかっても仕方がない」と覚悟することではないでしょうか。

私は今回の自宅のシロアリ駆除で4社に見積もりを依頼したのですが、最終的に工事を頼んだのは最も費用が高かった会社でした。それは事前の説明を聞いて、駆除方法(施工内容)や使う薬剤、作業に当たる作業員の人数など、最もコストをかけてしっかり行ってくれる業者だと判断できたからです。

うちのシロアリを駆除してくれたチーフも「効果的な駆除を行うには、絶対にお金はかかります」と言っていました。
シロアリのセルフ点検で「怪しい」と感じたら、早めに手を打ちましょう。

シロアリの痕跡(こんせき)を見逃さないで

シロアリのセルフ点検の基本は、シロアリを見つけることです。ただシロアリ駆除がほかの虫の駆除と異なるのは、その姿をなかなか私たちに見せないことです。だからシロアリ駆除は難航するのです。

しかし五感を研ぎ澄ませば、シロアリの活動痕跡は私たち素人でも次第に見えてきます。

蟻道(ぎどう)を見逃さないで

蟻道とは、シロアリがつくるトンネルです。シロアリは光と風が嫌いなので、土や糞などでトンネルをつくるのです。彼らは蟻道というトンネルを通って、餌場となる木材まで「通勤」するのです。
蟻道は木材やコンクリートなどに付着する形で広がっていきます。あたかも木材の表面に血管が浮き出たように見えるので、一目瞭然です。

また、なんの支えも頼らずに、土に細い棒を突き刺したような蟻道もあります。これを「空中蟻道」といいます。

床下の蟻道を発見することは難しいのですが、脱衣所や台所の壁紙クロスのつなぎ目に蟻道が見えることもあります。単なる泥の汚れのように見えることもあるので、蟻道の発見には注意深い観察が必要になります。

蟻道を少し壊すとシロアリが見つかることもありますが、使い終わった蟻道の場合、シロアリは見つかりません。
使い終わった蟻道であっても、シロアリ駆除業者にとっては駆除戦略を描くうえで重要な資料になるので残しておきましょう。

羽アリを見逃さないで

シロアリには、羽を持った羽アリが存在します。羽アリは飛ぶので、私たちの目の前に現れる確率が、羽のないシロアリより高くなります。
羽アリが発見できる時期と場所は、シロアリの種類によって異なります。

  • ヤマトシロアリの羽アリ:3~5月:夜間の電灯
  • イエシロアリの羽アリ:5~7月:夜間の電灯
  • アメリカカンザイシロアリの羽アリ:6~10月:昼間、いたるところ

羽アリを見つけたら、羽アリの発見場所を詳しく探索するより、

  • 建物の周囲
  • 台所
  • 浴室
  • 洗面所

などをチェックしましょう。こうした場所から飛んできた可能性が大きいのです。

住宅を襲わない普通の黒アリにも羽アリはいます。
見分け方は羽の形です。
シロアリの羽アリは左右計4枚の羽根の大きさが同じです。黒アリの羽アリは、前羽が大きく、後羽が小さいのです。

羽アリは小瓶に入れて保管しておき、シロアリ駆除業者に見てもらうといいでしょう。

糞を見逃さないで

日本ではメジャーではないのですが、アメリカカンザイシロアリというシロアリがいます。このシロアリは乾いた木を好むという珍しい性質を持っています。
ヤマトシロアリやイエシロアリは、湿気たところを好みます。

アメリカカンザイシロアリは、少し大きめの砂粒のような糞を一カ所にためておく習性があります。木材の下に糞のかたまりがあった場合、その真上の木材がアメリカカンザイシロアリに侵害されているかもしれません。
木材の表面上に異変を発見できなくても、中身がアメリカカンザイシロアリは食われている可能性があります。

家の異変を見逃さないで

家は元来、シロアリを含む外敵から住人を守るためにつくられています。そのため簡単にはシロアリに壊されることはありません。

その頑丈な家に異変が現れるということは、シロアリによる被害がかなり広がっていると考えていいでしょう。
しかしそれだけの大きな被害ですら、多くの住人が気づかずに暮らしています。

セルフ点検でシロアリを発見するには、家の異変に敏感になりましょう。
家の異変の見逃すのは、「この不具合がシロアリによるもののはずがない」という気持ちです。常に「もしかしたらシロアリかもしれない」という警戒心を持っておきましょう。

中古住宅の「プカプカ床」を見逃さないで

中古住宅のオーナーはプカプカ床とギシギシ床に注意してください。購入時から床に異変がある場合、「経年劣化だろう」と思ってしまいます。
新築住宅を購入した方も、ちょっとしたプカプカやギシギシに注意してください。いままで鳴らなかった変な音が鳴り始めたということは、何かが起きているということです。

床下の木材がシロアリに食べられると、床の強度が落ちます。床は重量物の圧力を常に受けているので、シロアリ被害による異変が早期に現れやすい場所なのです。

ドアがしっかり閉まらない、雨戸の開け閉めがしづらい

住宅の中の部屋と廊下を仕切るドアが閉まりにくくなったり、雨戸の開け閉めがしづらくなったりすることも、シロアリ被害のサインです。
ドアや雨戸は隙間なく設置されているので、シロアリが太い柱を食べて家が微妙にゆがんだだけで不具合が発生します。

雨漏りがあった場所は注意

ヤマトシロアリとイエシロアリは湿った場所を好むので、住宅内の雨漏りが発生した場所は彼らの快適な環境になってしまいます。
雨漏りを修理した箇所は定期的に見回りましょう。

突然2階に被害を発生させる群飛(ぐんぴ)とは

シロアリは地面に生息する虫なので、住宅のシロアリ被害はまずは地面を支えている基礎部分、そして床下、次に1階部分へと、下から上にあがっていきます。
しかしまれではありますが、1階部分は無傷なのに2階だけ突如被害を受けることもあります。

シロアリは数年に1度、羽アリが集団で巣を飛び立つ行動を起こすことがあります。これを群飛といいます。
群飛をしたシロアリの羽アリが、湿った環境を求めて住宅の2階部分の雨漏り跡に飛来するのです。床や壁に蟻道がないのに、屋根裏にシロアリが巣くっているケースは、群飛で移ってきた可能性があります。

定番箇所は特に注意

トイレ、風呂場、脱衣所、洗面所、キッチンはシロアリが生息する「定番箇所」といえます。水道管や排水管が傷ついて水漏れしていると、そこが湿潤環境になってシロアリを呼び寄せてしまいます。

水回りはリフォームの人気メニューですが、その場合でも住宅オーナーが気にするのは機器類の機能性やデザインではないでしょうか。
しかし水回りのメンテナンスでは、シロアリ対策を兼ねて「湿気た環境をつくらない」という視点も大切です。

畳のある和室は注意

畳自体がブカブカしていたり、畳に小さな穴が開いていたりする場合、シロアリの仕業かもしれません。
畳を持ち上げたら、裏面にびっしり蟻道が張っていたというケースもあります。

畳がいきなりシロアリにやられることはないので、畳が食われている場合、家全体に被害が広がっている可能性があります。
畳は「敷板(しきいた)」という木の板の上にのっているのですが、畳がやられている場合、十中八九、敷板もやられているはずです。
そして敷板は「根太(ねだ)」という木材に支えられているので、根太も被害に遭っているはずです。

つまり畳までシロアリにやられてしまうと、敷板や根太まで修繕しなければならなくなるかもしれません。
そのような巨額出費をしないために、毎年末の大掃除のときに畳を持ち上げてみてはいかがでしょうか。

住宅支えている部分を見る

シロアリの被害は土からスタートします。土に接している住宅を支えている部分は、シロアリのセルフ点検で大切なチェックポイントです。

床下に入ることは危険が伴いますので、とりあえず住宅の外から見える範囲と、家の中の床下点検口からのぞける範囲でかまわないので、1年に1回は確認しておきましょう。

「うちには床下点検口なんてない」と思った方もいると思いますが、ほぼすべての住宅にあります。
床下点検口は洗面所の床などに設置されています。床に一体化する形で30センチ四方の板が埋め込まれています。その30センチ四方の板は金属の枠がしてあって、飛び出す取っ手がついています。
その取っ手を引き上げて板を持ち上げると30センチ四方の穴になり、床下に人が入れるというわけです。

ただ一般の方は、床下点検口に頭を突っ込み、そこから懐中電灯で照らされる範囲を見れば十分です。

具体的にこうやってチェックしよう

シロアリは大好物の木材を食べるとき、表面は傷つけないようにします。木材の中身だけを食べていくので、人が気がついたときにはスカスカ状態で少し衝撃を加えただけで崩壊してしまいます。
よって、シロアリ被害は目視だけでは難しい場合があります。
ひと手間加えたチェックをしてみましょう。

ハンマーで叩いて空洞音をチェックする

中身がスカスカ状態の木材をハンマーで叩くと、空洞ができていることが分かる音がします。これを空洞音といいます。
空洞音を確かめるには力は要りません。1カ所1~2回叩くだけでかまいません。ただ、叩く位置を少しずつ移動させてください。叩いた場所から20センチ離れた場所を叩き、また20センチ離して叩く、といったように丹念に叩いていってください。
空洞音を聞くことができる範囲は意外に狭く「あと1センチずらして叩いていた聴こえていたのに」ということになりかねません。

木材はドライバーでつついてみる

また、住宅の木材をドライバー(ねじ回し)でつついてみてください。これも力は要りません。
シロアリに食われている場合、軽く突き刺すだけで木材がボロボロこぼれてきます。

床下に入るのは注意が必要

「床下点検口にもぐってみたい」という気持ちは分かりますが、あまりおすすめできません。床下を探索することは目視点検としては効果的ですが、危険を伴うからです。這って進むことになり、最悪、進むことも後退することもできなくなってしまいます。

それでもやってみたいという方のために

それでも床下の中に入ってみたい人向けに注意点を挙げておきます。

  • 1人では作業をしない。必ずもう1人が家の中にいて、脱出できなくなったときに救急隊を呼べるようにしておく
  • 汚れてもいい服装を着る(土が入りにくいツナギがベスト)
  • ゴーグル、軍手、防塵マスク、ヘッドライト、ヘルメットをする
  • ハンマーとドライバーを持っていく(空洞音や腐った木材を確認するため)
  • 夏の暑い時期には行わない(脱水症状に陥る危険がある)
  • デジカメを持っていく(シロアリの痕跡を撮影しておくと、シロアリ駆除業者に説明しやすい)
  • 柱などの木材は入念にチェックする

まとめ~家を愛する気持ちが大切

マイホームを愛さない家主や住人はいないと思いますが、床下、屋根裏、畳の裏まで愛せる人は少ないのではないでしょうか。
しかしシロアリ駆除のプロたちが私に教えてくれたのは、そのような日陰の場所こそシロアリに狙われやすいということです。家のすみずみまで目を光らせましょう。