もし北海道と東北の一戸建て住宅のオーナーが「寒い地方にはシロアリがいないから安心だ」と理解していましたら、すぐにその考えをあらためたほうがいいかもしれません。

北海道と東北でも、シロアリは発生しています。
しかも極寒の地でシロアリが発生した場合、そのほかの都府県では考えられない困難を抱えるかもしれません。

それは「シロアリに詳しい業者が近所にいない」「シロアリ情報が少ない」という困難です。
北海道・東北もシロアリが生息するとはいえ南の暖かい地域よりは被害件数が少ないので、シロアリ駆除業者が少ないのです。
シロアリの攻撃力には地域差がないのに、シロアリに対する防御力(駆除力)では、北海道と東北は圧倒的に不利なのです。

北海道と東北に生息するシロアリの特徴、注意点、被害、活動時期などを紹介します。

【特徴】「シロアリは寒さが苦手」は事実

日本で最も勢力があるシロアリは、ヤマトシロアリです。2位は巨大な巣をつくるイエシロアリで、3位は外来種のアメリカカンザイシロアリです。
イエシロアリとアメリカカンザイシロアリはまだ北海道・東北には到達していません。

北海道と東北に分布するのはヤマトシロアリです。ヤマトシロアリだけが厳寒に耐えられる力を持つことに成功したのです。

あまりに寒いと仮死状態のまま本当に死んでしまう?

ヤマトシロアリは通常、気温6度に達するまでは活動を開始しません。12度くらいになると元気が出てきて、最も好ましい温度は28度です。

シロアリが寒さに苦手というのは、すべての種類のシロアリに当てはまる事実です。シロアリは冬眠しないのですが、気温が著しく下がると仮死状態になり、気温が上がると蘇生すると考えられています。

しかし仮死状態からすべてのシロアリが蘇生できるわけではなく、寒さが厳しくなると仮死のまま本当の死に至ってしまいます。
ところが北海道札幌市のシロアリ駆除業者が、ヤマトシロアリのとんでもない能力を見つけました。詳しく紹介します。

【特徴】ヤマトシロアリが札幌で驚異的な変化を遂げた

札幌の害虫駆除業者、株式会社青山プリザーブの青山修三さんとうい方が、国立研究開発法人科学技術振興機構の電子ジャーナル出版「J-STAGE」に「北海道におけるヤマトシロアリの耐寒性と生息地点在への疑問」という論文を公表しています。
こちらのURLで全文を閲覧できます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jwpa/35/6/35_6_282/_pdf

この論文によると、北海道のヤマトシロアリは、寒さに耐え抜く力を身につけてしまったのです。

8割以上が仮死状態からの蘇生できる

青木さんは、札幌、秋田、つくば、鹿児島で採取したヤマトシロアリを、マイナス4度の寒い環境に置く実験を行いました。

ヤマトシロアリは冬眠しないのですが、寒くなるとまったく動かなくなる仮死状態に入ります。仮死状態に入った温度は以下の通りでした。

  • 札幌産:プラス4.5度で仮死状態入りした
  • 秋田産:プラス5.5度で仮死状態入りした
  • つくば産:プラス4.0度で仮死状態入りした
  • 鹿児島産:プラス5.5度で仮死状態入りした

札幌産と鹿児島産は「寒い地方のシロアリは寒さに強く、暖かい地方のシロアリは寒さに弱い」という法則に当てはまるのですが、秋田産とつくば産はその法則に当てはまりません。

驚きの結果は、蘇生率に現れました。
蘇生とは、マイナス4度にした後に気温を高くして、仮死状態から再び動き出した状態のことをいいます。
蘇生率とは、仮死状態に陥ったシロアリの数に対する蘇生したシロアリの数の割合です。数字が高くなるほど、気温の寒さによる仮死状態から蘇生する力が強い、といえます。

  • 札幌産:84%
  • 秋田産:16%
  • つくば産:46%
  • 鹿児島産:20%

札幌のヤマトシロアリの蘇生率は84%にも達したのですが。なぜか寒さに強いつくばのヤマトシロアリでも46%ですし、鹿児島のヤマトシロアリに至っては20%しか蘇生できませんでした。

寒い地方の秋田のヤマトシロアリがなぜこれほど寒さに弱いのかはひとまずおいておくとして、札幌のヤマトシロアリの適応能力には青山さんも驚き、「札幌産のヤマトシロアリは他地域とは異なる耐寒性を獲得していると推定される」と述べています。

【注意】住宅メーカーですら「北海道にシロアリはいない」と思っています

札幌のヤマトシロアリがこれだけの大変化を遂げているのですが、「北海道にはシロアリはいない」と考えている建築業者もいます

札幌のある建築会社がこんなエピソードをホームページで紹介していました。
同社が札幌市内に建てた住宅のオーナーから「シロアリが出た」と連絡を受けました。同社の営業担当者が現場に向かったところ、シロアリは「本当にいた」のです。
この営業担当者はホームページに、「札幌にシロアリが生息するわけがないと思っていた」とつづっています。
この建築業会社は、札幌にもシロアリが生息していることを注意喚起しているのです。

北海道の住宅用木材はシロアリ対策がなされていないのか

本州の住宅メーカーでは、防蟻(ぼうぎ)処理した木材を使うことは珍しくありません。
防蟻処理とは、木材に特殊な薬品を塗りシロアリに食われないようにすることです。しかし建築業者が「北海道にはシロアリはいない」と思っていれば、防蟻処理をする木材は価格が高いので、使われないこともあるかもしれません。

先ほどの札幌の建築会社の話を聞くと、「北海道の住宅のシロアリ対策は手薄なのではないか」と疑いたくなります。北海道で家を建てようと思ったら、業者に「防蟻処理した木材を使ってください」と依頼したほうがいいかもしれません。

北海道・東北で中古住宅を買うときは床下調査を依頼しよう

中古住宅の売買を手掛けることが多い、札幌のある不動産会社は「北海道の不動産業者は中古住宅の床下のシロアリチェックをする習慣はない」と明かします。
北海道と東北で中古住宅を買うときは、「まさかシロアリ被害を受けている住宅を売らないだろう」とは思わずに、不動産会社にシロアリ被害があったかどうかを確認し、もし「シロアリ被害はない」と回答したら、その調査報告書まで確認したほうがいいでしょう。

【注意】シロアリはなぜ北海道・東北に勢力を広げられるのか

複数のシロアリ駆除業者が、シロアリは確実に北上している、と口をそろえます。なぜシロアリは北上し続けることができるのでしょうか。

宮城県でアメリカカンザイシロアリが発見されたこともある

北海道・東北には日本で最も大きな勢力を持つヤマトシロアリしか生息せず、2位のイエシロアリと3位の外来種のアメリカカンザイシロアリは関東以南にしか生息しない、と言われています。
しかし最近、宮城県でもアメリカカンザイシロアリが見つかったという報告がありました。

シロアリが北上する理由1:住宅の工法

多くのシロアリ駆除業者は、シロアリが北上を続けられるのは、住宅の工法に理由があるのではないかと見ています。
基礎外断熱工法では、住宅の基礎の外に外断熱材を貼り付け、外断熱材の外にさらに外装材と呼ばれる外壁を貼り付けます。この工法は住宅内の気密性を高めるので、夏涼しく冬暖かい家になります。家の中が快適になるので、人気の工法です。

しかし、基礎=外断熱材=外装材というサンドイッチ構造になっているので、基礎と外装材の間がシロアリの住みかになってしまうのです。
シロアリにとっても快適な基礎外断熱工法の住宅が北海道・東北にも広がったことが、シロアリの北上をアシストしてしまっているのです。

住宅メーカーもただ手をこまねているわけではなく、基礎外断熱工法の住宅を建てるときに、薬剤を自動に散布するシロアリ駆除システムを提案する会社もあります。
ただ逆の見方をすると、わざわざシロアリ駆除システムを設置しなければならないくらい、基礎外断熱工法はシロアリに狙われやすいともいえるのです。

シロアリが北上する理由2:温暖化

シロアリが日本を北上しているのは、地球の温暖化も関係していると指摘するシロアリ駆除業者もいます。北海道・東北の気温が高くなればシロアリが活動できるようになる、という説明は説得力を持ちます。

【被害】実際どこまで広がっているのか

続いて北海道・東北のシロアリ被害について見ていきましょう。
北海道内の被害状況については、再び青山さんの論文を参考にしてみます。

最北の稚内、流氷の網走には被害が及んでいない

青山さんの北海道内の調査によると、日本の寒さの代名詞でもある「最北の稚内」や「流氷の網走」「湿原の釧路」では、シロアリの生息は確認できませんでした。
日本最北のシロアリ生息確認地は名寄市、日本最北のシロアリ被害地は留萌市でした。

北海道内は点在している

北海道内のシロアリ被害状況の特徴は「点在」です。
つまり「線状」に被害が広がっているわけではなく、「面状」に広がっているわけでもないのです。
道内でシロアリ駆除の要請が多いのは、函館と札幌、およびその周辺です。函館と札幌は同じ道内でありながら約250キロ離れています。これはほぼ東京と名古屋ぐらいの距離になります。

東北の被害状況は「まんべんなく」

東北のシロアリ被害状況については、青山さんの調査のような資料が見つからず、ここでははっきりしたことは言えません。
ただ、青森、秋田、岩手、山形、宮城、福島にはシロアリ駆除業者が存在するため、シロアリも「まんべんなく存在する」といえそうです。

東北には「シロアリ駆除だけ業者」は少ない印象

シロアリ駆除業者を調べたところ、東北の中でも北に位置する青森、秋田、岩手や北海道内では、シロアリ駆除しか行わないシロアリ専門の駆除業者は少ないことが分かりました。
東京や関西、九州などには「シロアリ駆除だけ業者」が多数存在します。

北海道・東北でシロアリ駆除を手掛ける業者は、ゴキブリやネズミなど有害生物一般を駆除していたり、リフォーム会社だったりします。

これはシロアリ駆除だけでは経営が成り立たないからと推測できます。やはり寒い地方は、被害「件数」は少ないのでしょう。

北海道・東北だから被害が小さいというわけではない

北海道・東北では、シロアリ被害の「件数」は少ないものの、被害に遭った家の被害「規模」が小さいわけではありません。
シロアリが住みつくことができる家は、北海道だろうと東北だろうと沖縄だろうと変わりないので、北海道・東北の戸建てオーナーは警戒を緩めるわけにはいかないでしょう。

【活動時期】冬季以外は動ける条件がそろっている

ヤマトシロアリは気温6度ぐらいから活動を始めます。北海道・東北でも最近は、日によって春から夏の気温が関東以南を上回ることもあるため、冬季以外はヤマトシロアリが活動できる条件がそろっています。

札幌市のシロアリは4~10月に動く?

札幌市の月別の平均気温は以下の通りです。
ここからヤマトシロアリの活動時期を推測すると、4月ぐらいから動き始め10月まで活動する可能性があります。

1月マイナス3.6度
2月マイナス3.1度
3月0.6度
4月7.1度
5月12.4度
6月16.7度
7月20.5度
8月22.3度
9月18.1度
10月11.8度
11月4.9度
12月マイナス0.9度

仙台市と青森市のシロアリは4~11月に動く?

仙台市と青森市の月別の平均気温は以下の通りです。
ここからヤマトシロアリの活動時期を推測すると、4月ぐらいから動き始め11月まで活動する可能性があります。札幌よりは1カ月長く活動できそうです。

仙台市の平均気温
1月1.6度
2月2.0度
3月4.9度
4月10.3度
5月15.0度
6月18.5度
7月22.2度
8月24.2度
9月20.7度
10月15.2度
11月9.4度
12月4.5度

青森市の平均気温
1月マイナス1.2度
2月マイナス0.7度
3月2.4度
4月8.3度
5月13.3度
6月17.2度
7月21.1度
8月23.3度
9月19.3度
10月13.1度
11月6.8度
12月1.5度

まとめ~北海道・東北では新しい家も油断できない

寒さに強くなるシロアリの生命力にはただただ驚くだけです。北海道・東北の戸建てオーナーは、決して油断しないでください。
関東以南では、古い住宅ほどシロアリに狙われやすいのですが、北海道・東北の場合、古い家は寒さが厳しいので少し安全かもしれません。北海道・東北では、むしろ新しい住宅のほうが危険かもしれません。